「それはちょっと勘弁してもらえませんか!?」
来月末で契約を打ち切ると言われた佃航平は、取引先に懇願する。
池井戸潤の小説を原作としたドラマ「下町ロケット」の1シーンだ。
最近、「U-NEXT」の入会を良いことに、これでもかと言うくらいドラマやドキュメント映像などを見ている。
「U-NEXT」の良いところは、ポイントを利用することで実質無料でNHKオンデマンドを視聴できるところだ。
歴史好きな私が、大河ドラマをはじめ、歴史秘話ヒストリア、その時歴史が動いた、さかのぼり日本史などの番組を、業務中にこっそり見ていることはメンバーには内緒だ。
さて、冒頭のシーンである。
大口取引を失うと資金繰りが悪化する?
下町ロケットの主人公、佃航平は「佃製作所」という町工場の社長だ。
いわゆる下請け業者で、大手からの発注を受けて、バルブ等の部品を製造する。
冒頭のセリフは取引先の方針変更で、佃製作所との契約をおよそ1ヶ月後に打ち切るという話をされた時の佃航平の言葉だ。
大口の取引を失った佃は、資金繰りに困り銀行に融資を申込むが断られてしまう。他にもモロモロあり、佃製作所は倒産の危機に陥る。
もちろん、事なきを得ることになるのだが、佃の葛藤を見ていると、スモールビジネスオーナーとして共感を感じずにはいられなかった。
特にBtoBの場合は、顕著だろう。大口の取引先を失ってしまうと、一挙に資金繰りに困るスモールビジネスオーナーも少なくない。
年収3,000万円のコンサルタントの話
知り合いのコンサルタントは、年商(≒年収)3000万円だ。
数字だけみると悪くない。何なら一般的に見れば、高収入である。
ただし、その内およそ80%に当たる2400万円ほどは大口の2社からの収入だという。
詳しくは聞いていないが、おそらく研修か何かのスポットコンサルティングだろう。
月間100万円で1社当たり年間1200万円。2つで2400万円といったところか。
生活水準(固定費)をどの程度まで引き上げているかによるが、仮にギリギリになっている場合、大口2社の内どちらかとの取引が終了すれば、一気に困窮に陥るだろう。
通常、取引終了する時期は予想できるものだが、何らかの理由で急に終わった場合、佃製作所と同じように、銀行融資などの金策に走るしかなくなる。
私たちも以前は、BtoBで大口取引がメインの時期があったので、こんな状況は考えただけでもゾッとする。
わかりやすいようにコンサルタントの例をあげたが、それ以外のスモールビジネスでも何か1つの歯車が狂えば、同じような状況に陥る可能性があるし、日夜、その類の心配をしていることと思う。
佃製作所にしても、知り合いのコンサルタントにしても、問題の原因は共通している。
フローで売上を立てている内に、ストックを育てておく
言うまでもないが、大口取引に依存していることが原因だ。
もっといえば、大口取引の割合が大きいことや固定費が上がってしまっていることが原因である。
ここから我々スモールビジネスが学べることは何だろうか?
1つは、「固定費はできるだけ低くしておく」ということだ。
固定費が低ければ、大口取引がなくなっても耐えられる。固定費が上がってしまっているから、身動きが取れなくなる。
こんなことは、スモールビジネスオーナーのあなたには言わずもがなだろう。
もう1つは、「大口取引に依存しないようにする」ことだ。
それを実践するにあたって、意識しておきたいのが、「フローで売上を立てている内に、ストックを育てておく」ということである。
どういうことか?
フロービジネスとストックビジネス
言葉のとおりである。
スモールビジネスに限らず、売上の立て方には、大きく2つの種類がある。
フロービジネスとストックビジネスの2つだ。
「フロービジネス」とは、ウェブ制作会社のホームページ制作、美容室のカット・カラー、税理士の確定申告代行などのことだ。
リピートはあるかもしれないが、契約などをするわけではないので、収入が安定しない。
「ストックビジネス」とは、携帯電話の代金、スポーツジムの月会費、不動産の賃貸料金などのことだ。
リピートが前提なので、一回販売すれば、あとは安定的に収入が得られる。
簡単に見分けられるたった1つの質問がある。
見分けるたった1つの質問
「3年後には、確実に売上が上がっているか?」
この質問に、自信を持って「はい」あるいは「もちろん」「当然」と答えられるかどうかが、フローとストックを見分けるポイントだ。
「この世の中に、確実なものなど1つも無い」という意見もあるかもしれない。だったら、「あとは時間が解決してくれる」と言えるかどうかを考えてみるといい。
フロービジネスの場合、あまり実感が湧かないかもしれないが、ストックビジネスなら、時間が解決するというのは実感を持って感じられるだろう。
なぜなら、ストックビジネスは積上型のビジネスモデルだからだ。逆にいうと、1ヶ月後にドカンと売上が上がるかという質問には、「いいえ」となる。
スモールビジネスオーナーと接していて感じるのは、フロービジネスで売上を立てられるようになると、満足してしまう人が多いということだ。
フロービジネスだけでは、佃製作所のように、いつ危機に瀕するかわからない。だから、フローで売上を立てている内に、ストックを育てておくのだ。
会員制コミュニティ、会員優待サービス、勉強会、ニュースレター、オンラインサロン…etc。いずれもどんな商売でも取り入れられる。
ストックビジネスは初動が一番大変だ。その分、軌道に乗ったらラクになる。だからこそ、軌道に乗るまで、フローの売上をストックに回す。
当分の間、ストックビジネスは、フロービジネスの金食い虫でいい。毎月、最低限の報酬等を確保したら、残りはすべてストックビジネスの広告や販促に回してもいい。
それだけのメリット、価値がストックビジネスにはある。もちろん、フロービジネスに価値がないという訳じゃない。確固たるフロービジネスがあるから、ストックビジネスをスタートできるのだ。
安定のストックビジネスがあれば、また別のフロービジネスだって始められる。フローとストックの両輪でいこう。